レコード業界は自分たちの権利を守るために非常に必死で、そのために著作権法を十二分に活用している。しかし、著作権法の規定だけに依っていれば、明らかに守られないことがらもある。例えば、著作権法では、家族や親しい友人との間でCDを複製すること(私的使用のための複製,著作権法第30条)は認められているし、また友人と割り勘でCDを購入することについての白黒も曖昧である。
例えばコンピューター・ソフトウェアに広く「使用許諾契約」という概念が存在し、「ライセンス」という形によって使用権を販売しているように、レコード業界も「鑑賞許諾契約」という概念を作って、購入者には鑑賞権をライセンスするという形を取れば、何の問題もないのだ。こうすれば法律論ではなく、自由契約の原則に基づき彼らの好きなようにできるのだ。
ここまでやってくれれば、消費者のCD離れがますます進むこと請け合いである。著作権法をタテにネチネチやられたり、政治力で著作権法を改正しようとするのに比べれば、この非道な契約を押しつけてくれる方のがかえってこっちはスッキリする。
鑑賞許諾契約書
本コンパクト・ディスク(以下「CD」と略す)を開封した時点で、購入者は本契約に同意したものとします。同意できない場合は開封せずに、速やかに購入店にご返品下さい。
1. 鑑賞許諾
(1) 本CDに録音された楽曲は、購入した本人1名にのみ鑑賞を許諾されるものである。楽曲の著作権(著作権法第17条から第28条に含まれる全ての権利)は全て、著作権者に留保される。
(2) 購入行為が複数名の共同で行われた場合には、本鑑賞許諾契約は、代表者1名に対してのみ、有効であるものとする。
(3) 著作権法の規定にかかわらず、購入者の家族等といえども本CDに録音された楽曲を鑑賞することはできない。
(4) 鑑賞許諾は本楽曲の発表日(日付はCDの外装に表示)より50年の経過後に消滅し、この日を以て購入者は速やかに本CDを廃棄する義務を負う(廃棄の方法は別項に定める)。
2. 鑑賞方法
(1) 本CDは、原則としてヘッドフォンを着用して鑑賞しなければならない。但し、3次元的に閉鎖された空間(例えば部屋や自動車などの中)で鑑賞する場合において、購入者以外の人物がいないことが確認された場合に限り、スピーカー等の機器を利用して鑑賞することができる。
(2) 購入者は本CDに録音された楽曲を、利便性をはかるなどの目的からオーディオテープ・光磁気ディスク・コンピューターの固定ディスク等の別の記録媒体に移してから鑑賞することができる。但し、別の記録媒体に移した後は速やかに本CDを廃棄しなくてはならない(廃棄の方法は別項に定める)。
3. 譲渡
(1) 本CDは、有償と無償とを問わず、他人に譲渡することはできない。
(2) 民法に定める相続が発生した場合、本CDの物体は当然に相続人の所有物となるが、鑑賞許諾契約はその時点で終了し、相続人はこれを鑑賞することができない。
4. 廃棄
(1) 本CDが不要になりこれを廃棄する場合には、以下のいずれかの方法により、再生が不可能な状態にした上で、自治体の定める方法により処理することとする。
・熱処理……本CDの全部を摂氏300度の熱で10分間以上加熱すること。
・裁断処理……本CDの円周から中心に向かって半径の4分の3以上の切り込みを入れること。
・折半処理……本CDを大きさが均等になるように折り曲げて割り、二つの半円に分離すること。
(2) 廃棄を行なうまでの間は、購入者はCDが盗難などに合わないよう、善良なる管理者の注意をもって管理しなければない。
5. 損害賠償
(1) 購入者の故意または過失により、楽曲の再生音を第三者に鑑賞させ、または本CDが第三者の手に渡った場合、購入者は著作権者に対し損害賠償を行う責を負う。
(2) 前項の額は、鑑賞に至った人数と鑑賞許諾契約にかかる費用(つまり本CDの売価)を乗じた額を基準に算定を行なう。
本契約に関する第一審専属裁判所は東京地方裁判所とする。
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