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解散宣言・「正しい日本語を守る会」
文脈主義者と言い換え主義者
2005.8.24
 各論の部分で私が論じるものには、次のパターンのものが多い。
 ○○という語は、××という意味と△△という意味があり、紛らわしい
 これに関して、次のようなおきまりのコメントがある。

匿名希望 さんのコメント:
アホか。文脈から分かる。 No.1
匿名希望 さんのコメント:
△△を表すときは□□と言えば紛らわしくない。 No.2

 当サイトはエンターテイメントなのであるから、楽しんで野次を飛ばす分には構わない。しかし、野次があまりにワンパターンで、おまけに的を射ていなく、私や他の読者を辟易させるのは問題である。

 ましてや、上に示したようなコメントに対する私の答えは、「そういう人がいるから困るのだ」になる。コメントが困るのではない。そう思っている人がいることが正に問題なのだ。なぜか。ここでは、それを述べていくことにする。


【1】文脈から分かる、と主張するケース

 私はこのコーナーで、例えば「ドライバー」という言葉は、ねじ回しとゴルフクラブの両方を差すから紛らわしい、などと書く気はない。これには、二つの理由がある。

 まず、このコーナーは、何も同音異義語やダジャレを取り上げて理屈を並べるための場ではない。同音異義語など、挙げ出したらきりがない。文脈で分かる場合も、分かりにくい場合もある。だが、「雲」と「蜘蛛」が紛らわしいことや、「花」と「鼻」が紛らわしいことなど、誰でも知っているのだ。後でも述べるように、紛らわしさを認識しているのと認識していないのとでは、雲泥の差だ。たとえ紛らわしさの程度が同レベルだったとしてもである。実は紛らわしいのにそのことがあまり認識されていない言葉を取り上げて、それと指摘することこそが、冒頭で示したパターンの真意なのだ。

 ドライバーについて私が書かないもう一つの理由は、文脈から分かると思っているからだ。文脈や状況で判別できるような例を、私がわざわざ問題として取り上げるはずがない。私が「文脈でも判然としない場合が多い」と考えたからこそ、その語を取り上げているのである。それでもあなたが「文脈から分かる」と言うのなら、説得力のある論拠を示すべきだ。念のために言うと、文脈で分かる2〜3の例を挙げるだけでは不十分である。

 矛盾するようだが、本当は私は、こうも言いたい。「文脈で分かるから何だというのだ?

 文脈でしか分からないというだけでも実は、十分、問題なのである。そんな言葉だらけだったら、意味の確定はしづらくなる。例えば、「上げる」と「揚げる」は文脈で区別できると思われているだろう。では「たこをあげた」はどうだろうか。「蛸」と「凧」も「文脈で分かる」の類だが、これでは「蛸を揚げた」のか「凧を上げた」のか分からない。

 こうなると、さらに前後の文脈が必要になる。「おじいちゃんがたこをあげた。うまかった。」ならどうか。「うまい」もまた、紛らわしい言葉だ。爺さんが凧上げ名人だったのか、爺さんの作った蛸の唐揚げがおいしかったのか、判別できない。このように、文脈でしか分からない言葉だらけだと、意味を確定するのに、より大きな部分を必要とする。

 子供「今日、となりのおじちゃんにたこをあげてもらったんだけど、ものすごくうまかったよ。」
 母親「へーすごいね、おじちゃんにちゃんとお礼言った?」
 子供「うん!」

 大して興味もない話なら、こんなものでさっと流す場合もあるだろう。後日、母親は隣人に言うのである。

 母親「ご主人、お料理なさるんですって?うちの子がごちそうになっちゃったみたいで……」
 隣の奥さん「はぁ?」

 「たこ」という単語は、紛らわしい言葉だという一般認識があるだろう。母親が「たこって、どっちのたこ?」と子供に確認することに思い至ればよかったのだ。だが、実は紛らわしいということが一般的に意識されていないものもある。そういう場合ほど、話し手と聞き手が互いに別のものを思い浮かべていたのに、意思の疎通ができていなかったことに気づかずに会話が終わる危険がある。以前にも書いたが、「退社」など、その典型だろう。


【2】言い換えれば良い、と主張するケース

 「そのビールの缶、あいてる?」という質問は、紛らわしい。次の二つの可能性がある。

 @「空いてる?」つまり、空っぽになったかという確認
 A「開いてる?」つまり、缶の口を開けたか(開封済みか)という確認

 これは、文脈からも判然としないことが多い。というより、この質問に文脈など大抵、ない。

 言い換え主義者は言うだろう。
 「空っぽかどうかの確認をしたいときは、『入ってる?』と聞けばよい」
 その通りだ。だが、私はそんなことを話題にしているのではない。「あいてる?」と聞かれたときに、どちらに解していいか分からないから困ると言ってるのだ。言い換え主義者はさらに言うだろう。
 「開封したかを確認するときは、『口開いてる?』と聞けばよい」
 これも、その通りだ。だが、私はどのように表現するべきかを論じているのではない。私が常に話者であれば、その言い換えによって正しく相手に自分の意志を伝えられる。しかし、これが相手が発した質問だったらどうすればいいのだろう。万人が言い換えルールを知り、守ってくれることなど期待できない。

 言い換え主義者はさらに言うだろう。
 「『どっちの意味で聞いてる?』と、質問の主旨を問いただせばよい」
 これも、その通りだ。だが、私が聞かれた時のことを論じているのではない。問題は、「その缶、あいてる?」が実は紛らわしい質問だということを認識している人ばかりではないということなのだ。双方共にそれを認識していなかったなら、行き違いが起こる恐れがある。

 お分かりだろうか。紛らわしいと分かっているなら、確認すれば済むことだ。紛らわしさが最も問題になるのは、その紛らわしさが存在していることを認識できていないときなのである

 断言しても良い。下記のような意思疎通のすれ違いが、日本中でこれまでに何万回となく起こったことだろう。

 「そのビール、空いてる?」
 「うん、開いてるよ」

 (10秒後)

 「あれ、新しいの開けちゃったの? こっちまだ残ってたのに」
 「さっき空いてるって言ってたじゃん!」

【免責】このページは、筆者の考えで構成されているものに過ぎません。筆者は国語の専門家ではないこと、記述の正当性は何ら検証されていないこと、記述を参考にしたり転用したりした結果について責任を持てないことをお断りしておきます。
匿名希望 さんのコメント:
>17
それが言い換え主義者の言い分そのもの。
No.19
さんのコメント:
じゃん言葉の連発にウンザリ!
それに、最近は「東京山の手幼児言葉」を正しい言葉であるかのように全国に押し付けるのは不愉快である。
(例)
「〜しちゃう」「〜からさぁ(さぁさぁ弁)」「〜しぃ(しぃしぃ弁)」など
No.18
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