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行列のできるような人気ラーメン店の味は、良く、昔より「味が落ちた」と言われることがあります。自称常連の客や、自分は昔からその店を知っていたと言いたげな客が、悲しげ且つ得意げにこう言うのを、耳にしたことがあると思います。反面、「前よりおいしくなった」という評はあまり耳にしません。これには、ワケがあります。
およそラーメンほど、「どの店で食べるか」が重要な食べ物はないでしょう。天ぷらでも寿司でもパスタでも、おいしい店とそうでない店がありますが、ラーメンの場合人ははるばる遠くから訪れて行列を作ってでも、そこの店で食べます。それほど、店の個性が強く出る食べ物なのです。
確かにおいしいラーメン屋とそうでないラーメン屋というのはあります。しかし、好みによってこの評価は異なって来ます。もともと味の好みは一次元的な物ではないので、ある人にとっておいしいものが他の人にとってはおいしくないことはあります。ただ、ラーメンに関しては、この傾向が他の食事に比べてダントツに顕著なのです。「濃厚だが油の少ない豚骨ラーメンが良い」「太いちぢれめんと薄味の鶏ガラスープが好きだ」など、好みはまちまちです。そして、上記のように人々はおいしいラーメンを食べることに強い執着があるため、「自分の好きなラーメンを出す店」を探し当て、そこをお気に入りにするのというわけです。
視点を変えてラーメン屋の側から見てみましょう。ラーメン屋というのは、長年営業しているうちに「この店のラーメンの味が、ことさら好きだ」という客の比率が高くなります。この、非常にピンポイントな好みと、それを実現している店との、奇跡的な出会いと引力によってラーメン業界は成り立っているのです。
ですから、店主が“改良”のつもりで、店主なりに良かれと思って少し味を変えても、その店のラーメンがことさら好きだった客達は、「味が変わった」とは気づいても「おいしくなった」とは感じないのです。どんな変化であれ、以前の味と違う味は、その客の好みからはずれる傾向にあるのです。店の常連客というのは、正に“その店で今まで出して来た味”が好きなのです。味を変えたラーメン屋は、店名を変えて移転し、客層を総入れ替えして新たに審判を仰がない限り、新しい味に対する正当な評価は得られないことになります。