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靖国神社の参拝に関しては、中国や韓国が反対しているばかりでなく、日本の世論調査でも反対多数という状況です。この状況でもわが国の首相が参拝を続けようとするのは、一体どういうわけなのでしょうか。
それは、阿吽の呼吸というやつだ。
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どういうことですか。
「マグロ水揚げ日本一」の清水市(編集者註:現静岡市)と「マグロ船籍保有日本一」の気仙沼市とが毎年競い合う、200mを超える日本一長い鉄火巻を作るイベントがある。1年にわずかずつ伸ばし、互いに常に日本一を更新して、話題を奪うのである。「互いに話し合っているわけではないが、阿吽の呼吸だ」と役場の担当者が話しているのを見たことがある。
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それと、靖国問題と、どういう関係があるのでしょう。
靖国参拝に反対しているのは、中国や韓国の「国民」である。一方、中国や韓国の「指導部」は、口では反対していても、内心は必ずしも反対しているわけではなかろう。なぜなら、指導部は「反日」を一つの政策にしている。日本の首相による靖国神社参拝は、国民の反日感情をはぐくむ格好のネタだからだ。
「日本は靖国神社参拝をしてけしからん国だ。抗議する。やめさせる……」というポーズを取ることで、彼らは国民から支持を得ることができる。簡単なことだ、靖国参拝に文句さえ言っていれば良いのだから。
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じゃあ、日本の首相が靖国参拝をやめれば喜ぶんじゃないですか?
物事は、それほど簡単ではない。殺虫剤のメーカーは、害虫が絶滅しては困るのだし、消防庁も、火事がゼロになってしまっては存在意義を失う。彼らも、日本の首相があっさりと靖国参拝をやめてしまうと、その一時はやめさせた功績を讃えられるだろうが、後が続かない。だから、やめそうでやめなかったり、時期をずらしてお茶を濁したり、日本の首相をして「適切に判断する」と言わせたり、ちょうどそれぐらいがいいのだ。
一方で、「絶対にやめない」と言われたり、「やめる」と言ったのに参拝したり、などされると抗議した側としてはメンツがつぶれる。
よって、これは正に、日本と中韓の首脳が「阿吽の呼吸」でやっていることだと言えよう。
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良く分かりません。中国からしたら、靖国参拝をやめさせた次は、尖閣諸島を奪うとか、ガス田を侵略するとか、次の手はいろいろあるでしょう。
だが、それらは本当に戦争をする覚悟で取り組まねばならないことだ。費用もかかるし犠牲も出る。当然、米国の存在が怖い。そこへいくと、靖国や教科書問題は「阿吽の呼吸」で、口だけで抗議して進展がなくても、それでいいのである。費用だってかからない。だから、靖国参拝問題が一番、好都合なのだ。
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日本にとっては何が好都合なのでしょう。中国や韓国の政府は喜ぶかも知れませんが、日本が中国や韓国の国民から恨みをかうことは、得策ではないように思います。
だが、実際問題として、靖国参拝が「水際」なのだ。この問題でせめぎ合っている限り、まだ安全なのだ。靖国参拝をやめれば、一時的に反日感情が和らぐかも知れないが、中韓の政府が反日政策をやめない限り、反日感情がなくなることはない。一方、靖国問題が仮になくなってしまうと、中国や韓国の政府は「反日」のポーズを取るために、もっと厄介な問題--領土問題、カネ、天皇制など--に踏み込まざるを得なくなる。それは日本にとっても当然利益ではない。
歴史教科書問題も、同じ性格を持っている。
中韓の政府が「反日」で国を治めるという方針が変わらない限りは、靖国問題や教科書問題あたりでもめるポーズを取るのが最も平和なのである。
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でも、日本の歴代首相がみな靖国を参拝をしていたわけではありません。
人生いろいろ、首相もいろいろだ。阿吽の呼吸を理解する首相と、理解しない首相がいるのだろう。
それに、相手国の状況もある。平和なときは良いのだが、領土問題やその他で風向きがおかしくなったときこそ、敢えて靖国神社に参拝して、目をそっちに向けるというのも一つの外交戦術なのであろう。