T氏がある日語ったことによれば:
人間の向上心はいい方にも悪い方にもあらわれる。悪い典型例が、欲望のインフレーションなんです。
だれでも裕福な生活をしたい。これはかまわんのです。クルマを持ちたい、いい家に住みたい。あたりまえのことです。だが、そのうちに前と同じでは気がおさまらなくなってくる。ここが問題なんです。
人よりちょっとばかりいいものを着たいし、身につけたい。これなんかも当たり前です。だが、そこそこ金持ちになってくると、たいていのいいものは買えるようになる。ここから、欲望のインフレーションは爆発的に広がって来るんです。
変な宝石や汚い毛皮なんか買っちゃって、そのものの価値を誰が見ても分かるというのならまだしも、この次元に来ると、本人にとって、それに高い金を払ったこと自体が快感なんですね。散財の快感ていうやつです。これは麻薬と同じです。散財の快感もインフレをおこすから、前よりももっと大きな散財をしないと気が済まなくなってくる。
こうなってくると、人は芸術品を買い出すんですね。絵とか彫刻とか。宝石じゃダメなんです。グラムあたりの相場がある程度決まってますからね。そこへ行くと、芸術品は節税で買われるのと同じように、値段があってないようなもの。明らかに相場が決まってる宝石にバカ高い金払ったら笑い者じゃないですか。でも、芸術品ならそれも比較的ない。散財を快感とするバカ奥様にはもってこいなんです。