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先生、私は借家住まいですが、ローンを抱えるのはイヤだし、かといって払い続ける家賃はドブに捨てているようで勿体ないのです。このまま借りて住み続けるのと、自分で借金して家を買うのと、どちらが正解なのでしょうね。
それは、大変に不幸なことだ。
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どっちが、でしょうか?
どっちもだ。つまり、その悩みが存在していることが不幸なのだ。
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では、どうすれば良いのでしょうか。
20年間同じアパートや借家に住み、家賃を払い続けたならば、自動的にその家が賃借人のものになる。そういう法律を作るべきなのだ。
そうすれば、払い続けた家賃が無駄になることもない。決断して家を購入しなくたって、いつかは所有できる。
むろん、全ての賃貸住宅においてだ。アパートやマンションの一室なら、その区分所有権を、20年後に賃借人に移転する。
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ま、またずいぶんと乱暴なことをおっしゃいますね?
乱暴と思うかね? しかし、そうでもない。
戦後の農地改革を考えてみなさい。地主から土地を取り上げて、小作人に与えた。一見むちゃくちゃに思えるかも知れないが、この改革なしに、今の日本はなかっただろう。持てるものと持たざるものとの格差が大きくなりすぎた時に、国はおかしくなるのだ。
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しかし、地主が黙ってはいないでしょう...?
そりゃ当然だ。だからこそ、法律を作って強制的にそうするのだ。
そう、民主党は、こういう政策を公約にすればいい。もともと民主党の半分は社会党であり、こういう左派的な法律には賛成しやすいだろう。
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そんなことを公約にしたら、選挙に勝てませんよ。
逆だ。選挙に勝つには、効果的な方法だ。
人数から言えば、地主の数なんて、賃借人の数に比べれば知れているのだ。持ち家に住んでいる人々は、この法案には中立だろう。だが、自ら不動産を所有せずもっぱら賃借している有権者は、みんなこの法案に賛成するだろう。しかも、他のこまごました政策、例えば郵便局をどうするとか、直接自分に関係ない法案に比べ、投票行動に絶大な影響を与えるに違いない。
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言われてみればそうかも知れませんね。
ま、そのぐらい大胆な公約をしてみてもいいと思うがね。
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しかし、それじゃ家を貸す人がいなくなってしまうのではないですか?
そんなことはない。自分が住む以外の土地は、ただ放っておいても収益を産まないのだ。他に使い道がなければ、ないのと一緒だ。ところが、貸せば20年間は収益を産む。だから、賢い人なら、貸すだろう。
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そんなにうまくいくでしょうかね。とりあえず、20年貸して、少なくとも土地・家屋の値段はペイして利益が出なくてはいけないのだから、家賃は上がるんでしょうね。
上がるだろうね。
しかし、借り手が付かないほどには上がるまい。
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20年貸し続けると家を取られてしまうのでは、賃貸契約の更新を家主がしぶるようになるんじゃないですか。
不当に更新を拒むことは、厳しく規制するべきであろう。
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19年住み続けてあと1年という時に、会社に転勤を命ぜられたらどうすればいいのですか。
そりゃもちろん、あきらめるしかないだろう。会社か、家のどちらかを。