銀行が平気で
振込手数料の改定(というか事実上の値上げ)を行える、構造的な要因について指摘したい。
企業間取引においては、振込手数料を、振り込んでもらう側が負担するということがしばしば行われる。請求金額から振込手数料の分を差し引いて振り込むのである。例えば、10,000円の請求書が来れば振込手数料を引いて9,790円とかを振り込む。取引条件や取引先登録に於いて明示的にそういう条件に同意させる場合もあるし、受け取った請求書から勝手に引く場合もある。
この場合、振り込む側は手数料を節約する必要はないことになる。手数料が210円から420円に上がれば、それだけ損するのは振り込んでもらう側なのだ。振り込む側に節約のインセンティブがなく、振り込まれる側がその分を否応なしに負担するという構図は、銀行にとって手数料は上げ放題だということでもある。
インターネットバンキングが普及し出している昨今であるが、ネット経由で利用した場合の振込手数料は、店頭のATMを利用した場合よりも高く設定されている場合が多い。これ自体も異常なことだと思う。しかし、振り込む側が手数料を負担しないのであれば、節約のためにATMに並ぶ必要などない。遠慮なく請求額から差し引いて、ネットで振り込めば良いのである。これが、現実に起きていることだ。だからこそ、ATMよりも高い手数料設定ができるのである。
同様の原理から、振込手数料の値上げがあっても、銀行を変えるとか、より安い方法で振り込もうという圧力は働きにくいのである。
振込手数料が1,000円や2,000円もかかるなら、本来は現金書留郵便での送金を検討するべきなのである。だが、元々振込手数料を相手に負担させている企業であれば、銀行の手数料値上げには意外に寛容に違いない。
振込手数料にかような性質がある以上、「イヤなら他を使ってくれて構わない」という態度で値上げをされても困るのである。鉄道運賃と同様に認可制とするなり、何らかの対応がされて然るべきだ。
別のアプローチもあるだろう。手数料を相手に負担させることを禁止するやり方だ。
上限すらも定めずに振込手数料の負担を求めたり、勝手に手数料を引かれることに対し、現在の法律でもそれを拒否できないわけではない。だが、一般的には金を振り込む側が「客」であり「得意先」であるから、優越的な立場にあることが多いと考えられる。実際には理不尽と思いながらも、従わざるを得ないケースが多々あるはずだ。これを防ぐために「振込手数料は振り込みを行なう側が負担しなくてはならず、一方的に相手方に負担させる特約は無効」というルールを法制化するのである。自由契約を制限するようではあるが、契約が法の制限の枠内で行われるのは当然のことである。振込手数料の上限がたかが知れている時代はもう終わるかも知れないのだ。そして、手数料を負担する主体が送金の方法を選択できるのでなければ、適切な市場原理とは無縁なところで手数料が高止まりする可能性があるのである。
外国ではそもそも、振込手数料は双方で折半されるように銀行のシステムができていると聞いたことがある。