ファーストフードは、客を、待たせない代わりに並ばせる。このことは、
前に指摘したとおりだ。実際、ファーストフードの「ファースト(fast)」は非常に限定された努力に過ぎず、顧客が入店してから食べ物を口にするまでの時間を総合的に短くする努力はあまりなされていないように思える。ファーストフードの「ファースト(fast)」は「注文されてからお出しするまで」に限定されており、それを短くするために、他の部分が長くなるのはおかまいなしなのだ。
ファーストフードで行列に並んでいる間には、メニューを見ることができない。一応、レジカウンター上部のメニューが見られるが、写真が少なく、また全てのメニューが紹介されていないこともあり、結局は自分の番が来てから、セルロイド製の下敷きのようなメニューを見て決めることとなる。メニューをあれこれと迷う時間は、行列のできている時間帯には、非常にもったいない。その間作業員の手は停まり、また背後に行列の重みをひしひしと感じながら、ややあせってメニューを選ぶことになるのである。
「メニューを選ぶ楽しみ」というのは、飲食店というサービス業において一つの要である。ファーストフードは、これをあっさりと捨て去っているかのように見える。メニューに工夫がないとは言わない。しかし迷ったり決めたりするのにかけられる時間はホンの数秒の話だ。どんなに図太いあなただって、後ろに行列ができており前では店員が待っている状態で、1分以上かけてメニューを選ぶなんてできないだろう。これを普通の飲食店にたとえれば、客が注文を決めるまでウェイターがずっとテーブルで待っているのと同じ状態なのだ。いや、行列の分だけもっとひどい。テーブルに座ってから下敷きを見てメニューを決めるのなら、もっとずっとゆっくり考えて決めるという人は多分たくさんいる。従って、まず行列の間にゆっくりメニューを選べる工夫をして欲しい。例えば下敷きメニューと同じチラシを置いておく、とかだ。
「そうはいってもファーストフードはメニューの数も少ないし、パターンも決まっていて、そんなに時間がかからないじゃない?」という指摘もあろう。確かにファーストフードは料理の数は少ない。しかし、組み合わせ方は多い。単品で10種類のメニューがあれば、セットの組み合わせを足して20種類くらい作り出してしまう。そして、セットが単品よりどれだけトクか?という計算をしようとすれば、それこそ電卓片手に非常に吟味する価値のあるメニュー構成なのだ。
足し算をしてみると実はセットが単品の組み合わせと同じで、ちっとも割安ではないことだってある。セットの方がトクだからセットにするとしても、一体いくらトクなのか。高々30円のトクなら、本当はいらないポテトは外して単品にした方がいいか……ということを計算するだけの時間を、ファーストフードは我々に十分に与えてくれない。いや、むしろこれこそが彼らの狙いなのかもしれない。冷静な判断をさせずにセットメニューを注文させて、粗利を稼ぐ(ファーストフードで利益率の高いのは飲み物とポテトである)のでなく、セットがどれだけ割安かをぜひとも明示していただき、顧客が迅速かつ正確なメニュー選択をできるようにして欲しい。そんな数十円の違いにセコイことを言うな、などと言ってはいけない。平日半額とか何んとか、そういう安さに惹かれて客はファーストフードに行くし、店もまた安さをウリにしているのだ。安いフリをして客を誘い込み、いざ注文の段では冷静な判断の時間を与えないのでは、店先にだけ激安品を並べて誘い込み奥で高価なものを売りつける商法と同じなのである。