(老齢にして身よりのないT氏がある日言うことには)
私にはいくばくかの財産がある。決して少ない額ではないが、それほど多くもない。しかし、私には妻もなければ子もない。この財産を一体どうしてくれようか。
—— 先生、どこぞやに寄付されてはいかがです?
寄付などする気はない。私は私の金を自分のために使いたい。他人になんてビタ一文くれてやるつもりはない。
そうだ、墓を作ろう。古代の王のように、立派な墓をこれから作るのだ。私は、これからはその墓ができていくのを楽しみに毎日眺め、そこに入る日を夢見て余命をすごそう。
—— でも先生、先生が死んだら、その墓はどうなるんです? まさか死んだ先生が死後もそのまま所有者というわけにもいかないでしょう。相続する人もいないし、誰にもあげないんだったら、国に没収されてしまうんじゃないですか?
うーん、それは困った。この国は、年寄りに死後のお墓の夢も見させてくれんのか……。
—— それじゃ先生、お墓ごと財団にされてはいかがです? 財団法人に。