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私などには信じられないような、高い外車や高級ブランド品、高い靴、高い時計などが世の中では売れています。しかし、金持ちだからといってそんなに高いものを買わなくても良いのではないかと思うのです。
所得が自分の評価の一つだと考えている人が多いからね。プロ野球選手だって、ほとんど法外と言っていい年俸を、球団に要求している。しかし、あれは金が欲しいというよりも、金が評価だと思っているから、他の選手と比べて自分が納得いく水準にあることが非常に重要なのだろう。
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所得を自慢するために、高級品を買っていると言うことですか?
誠にその通りだろう。
自分の所得を自慢するのは、一般には、“はしたない”行為だとされるからね。ギラギラの高級品を身につけたり、高いクルマやクルーザーを所有することで、間接的に自慢するわけだ。しかし、本当に自慢したいのは、クルマやクルーザーではない。所得なのだ。
奥様方の宝石も、そうだ。旦那が高収入で、もしくは資産家で、所得が多いことを間接的に自慢するための道具に過ぎない。独身女性なら、これらは貢いでくれる男の量と質の証だ。これも、評価だからね。
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そうなのでしょうか?
だから、所得を高級品によって“さりげなく”自慢する必要をなくしてしまうことで、高級品がムダに売れることはなくなる。
手っ取り早いのは、所得を誰でも見られるように公開してしまうことだ。それも、役所などで公開しても仕方がない。いちいち人の所得を調べる人は少ないだろうし、人は時として、目の前の初対面の人にさえアピールしたくて高級品を身につけるのである。
そこで、公共の場では、所得を記入したナンバープレートのようなものを、体に外から見えるように掲示することを義務づけるのが良いだろう。これで、バーでもてるために、センスの悪いジャラジャラした時計や宝飾品を身につける必要もない。
当然、給与所得だけではなく、土地や株券などの資産から産み出される収入も全て加味したものを、プレートに表示するべきだろう。
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納税額の長者番付がプライバシーの問題で廃止されるこのご時世に、ずいぶん逆行したことをおっしゃいますね。希望者だけ公開ではダメなのですか?
ダメだ。希望して所得を公開するのでは、公開していること自体が“はしたない”行為になってしまうので、誰も公開せず、代わりに高級品を買うことになる。
強制であることが重要なのである。尤も、プライバシーの問題があるから、自慢する必要のないような所得の場合は公開不要で良いだろう。国民の半数ぐらいが公開対象となるぐらいで良いのではないか。
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それじゃ、プレートを付けていないことが、貧乏の証みたいで逆に恥ずかしいですよ...
だが、利点もある。所得が低いことがバレバレなんだから、ムリして高級品を買う必要がなくなるのだ。
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高所得のプレートを付けてバーや寿司屋に入ったら、高いものを勧められるし、明朗会計な店でなければ、割高な料金を請求されるのではないですか。
高所得なんだから、そのぐらいの累進課税は当然と言える。むしろ公平だ。
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大体、高所得を示すプレートを付けて歩いていると、悪者に狙われるんじゃないですか。
代わりに、所得を自慢するために高級品を買う必要がなくなるんだ。その分、浮いた金で、ボディーガードを雇えばいいではないか。
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しかし、どうしてそんな強制的な制度まで作って、高級品が売れなくなるようにしなければいけないのか、分かりません。
今さら、何を言い出すんだ。おぬしが、いかにも高級品が売れるのが不満そうに言うから……
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まあ不満もあるんですが、金は天下の回りものと言いますし、きっと高級品が売れることで、私みたいな者にも間接的には良いことがあるんですよ...