解散宣言・「正しい日本語を守る会」
訴状を見ていないのでコメントできない
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2002.12.19
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新聞記事で良く目にするせりふに、「訴状を見てないのでコメントできない」というのがある。民事訴訟で相手方に裁判を起こされて、起こされた側がマスメディアの取材に対しこう答えるのである。
職業や人となりにもよるかもしれないが、普通の人間なら、裁判を起こされるなどというのは一大事中の一大事である。それなのに「訴状を見ていない」とは何たる悠長なことか。いや、本当は真っ先に読んでいるクセに、取材に答えるのがイヤだから「まだ読んでいない」などとウソをついているのではないか……などと考えてしまい、いずれにせよ好印象なコメントではない。
しかし、これにはわけがある。原告が訴状を裁判所に提出し、受理されてから、被告に訴状が届くまでには2週間程度かかるのである。
そう考えると、この時点でマスメディアが取材に来ても答えようがないというのが事実だろう。そこで「訴状を見てないのでコメントできない」と当たり前のことを言うわけだが、そのまんまそのせりふを記事にされてしまうので困るのだ。コメントが取れなかったのだから取材したことも含めて記事にしなければいいのに、いちいちコメントを取ろうとしたということを読者にアピールしたいのだろうか。
しかし、それでも私にはどうして被告が「訴状を見てないのでコメントできない」と言うのかが分からない。
裁判の事情を知らない人が記事を読めば、上記のように「さっさと読めよ、おら!!」と思ってしまうだろう。それはなぜかというと、「見ていない」というのは、自然に、「あるけどまだ見ていない」と解釈されやすいからだ。訴状が届いているのにまだ見ていないときに使う表現が「見ていない」であって、届いていないことを「見ていない」と表現するのは日本語の用法として少し不自然なのだ。
本当は、素直に「訴状がまだ届いていないのでコメントできない」と答えれば良いのである。「訴状が届くのはまだ先なので、それからコメントさせて下さい」と言えば、マスメディアのせっかちな取材攻撃に対する非難と抗議が表現できてなお良い。それとも、そう答えても記者が「訴状を見ていないのでコメントできない」と書き換えてしまうのだろうか。
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