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先生、今度の会合には、どのようなお店を手配いたしましょう?
そうだな、懐石料理か、フランス料理にしてくれ。
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先生は、懐石やフレンチがお好きですね。
いっぺんに持ってこないからのう。
当たり前のことだが、食事なんて、お腹がすけばすくほどおいしいのだ。満腹時のビフテキや極上寿司より、空腹時の握り飯やホットドッグの方が、よほどおいしいものだ。
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それは、そうかもしれません。
だから、料理だって一皿食べたなら、その皿を下げて、しばらく日干しにされてから次の料理が出されるぐらいがちょうど良い。このちょっとした飢えが、次の料理をまたおいしくするのだ。
最初から料理がすっかり並べられていたり、まだ目の前の料理を食べているのに次から次に運んでこられると、げんなりする。いわゆる、見ただけでお腹いっぱいというやつだ。
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なるほど、飢えが大事ですか。何事にも通じますか?
少なくとも、笑いは逆だ。
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笑い...ですか?
そうだ。笑いは、ギャグを続けざまに繰り出す方が効果的である。
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どういうことでしょう。
ギャグを一つ聞くと、精神状態が幾分、高揚する。この高揚は瞬時に起こるが、数十秒という時間をかけて元に戻る。
この高揚状態が、ある境界値に達すると、爆笑が起きるのである。優秀なギャグなら一つでも境界値まで持って行けるが、なかなかそうはいかない。そこで、最初のギャグで幾分、相手の精神状態を高揚させ、まだ冷め切らぬうちに、もうひとつギャグをかませる。すると、最初よりも高揚した状態から始まるので、有利である。こうして、連続してギャグを繰り出すことで、境界値まで持って行くことができる。一旦境界値まで達すれば、大したことのないギャグであっても、一同大爆笑となる。
最後に発したギャグから刻一刻と、高揚感は低下していくのである。あまり間をおかずにドカンドカンとやって、爆笑を演出するのが良いだろう。