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思想家T氏が語る
(コンビニで売られているのは、おにぎりにあっておにぎりにあらず)
2016.5.17
——   いやー、コンビニのおにぎりっておいしいですよねー。毎日でも飽きません。
 何を言っておるか。コンビニで「おにぎり」と称して売られているものは、おにぎりにあっておにぎりにあらず。というか、「おにぎりもどき」でしかない。

——   えっ、なぜですか?
 コンビニの「おにぎり」は、「おにぎり」の要件を殆ど満たしていないからだ。まず第一に、握っていない。おにぎりは、ごはんを握るように圧縮して米粒をつぶすように圧着させなければならない。それにより、風味が増すのだ。「握りつぶす」と表現しても良い。

 家庭でも衛生のためラップで握ることが増えているようだが、これもいかん。手袋なら良い。だが、ラップで握るなら、握ってはラップで包み直し……を繰り返さないと正しいおにぎりにはならない。ラップは縮まないからだ。ラップで握ると、おにぎりの全体が縮むときに、ラップがご飯の粒と粒の間に入り込むことによって擬似的に「縮む」。これでは米どうしが圧着されないのである。

 コンビニのおにぎりは、それ以下である。米飯の元の体積から、それほど圧縮されていない。コンビニのおにぎりは、「小さくない割にカロリー低め」を達成しなければいけないから、技術が進んだとしてもこの点は改善されないだろう。

 本当に「握った」おにぎりは、うまい。本当のおにぎりを食べて、この旨さを思い出すべきだ。

——   そんなものですか。他にもありますか?
 第二に、周りに塩が付いていないことだ。おにぎりとは本来、塩をまぶした手で握るものであり、塩を混ぜて炊いたご飯で作るものではない。これも、大いに風味に影響する。

 第三に、油っぽいこと。というよりも、生産機械に米粒が付着しないように、油を使わざるを得ないのだ。

 第四に、海苔が最初から巻いていないこと。これに関しては、コンビニでも「しっとりタイプ」などと称して売っているが、ぱりぱりは邪道。しっとりが本道である。湿った海苔の臭いと風味が中に染みて、一体となった料理になっているのだ。

——   えっ、おにぎりも、料理ですか!!
 当然だ。

 第五に、コンビニのおにぎりは中身が何か、外側に書いてある。あれは、無粋だ。おにぎりとは、食べ進んで中身が分かるという「お楽しみ」的要素も含んでいるのだ。家庭で作ったおにぎりでも、中身が分かるように外にちょっと具をなすりつけたり、形を変えたりする工夫もあるようだが、好き嫌いのない人間なら、こんなことはするべきではない。

 第六に、素手で握っていないこと。衛生上の問題で仕方ないが、本当はおにぎりは、素手で握るべきものである。手袋をせずに、素手で握ることで、ホルモンがごはんに移って、おいしさを増すという研究結果もあるぐらいだ。これに関しては諸説あろう。ホルモンと言うよりは、手の皮膚の常在菌がうつることで、発酵が進むのかも知れない。

 第七に、これはコンビニのおにぎりも合格なのだが、作ってから数時間してから食べること。できたてよりもしばらく寝かせた方がおいしい料理は多いが、おにぎりもそうなのだ。微妙な発酵が進むのかも知れない。

——   ずいぶんこだわりがあるのですね。
 そう考えると、コンビニのおにぎりどころか、君がおにぎりだと思って食べているものはほとんど、本当のおにぎりではないことが分かるだろう。今の若い者たちは、本当のおにぎりなど食べたことがないから、そのおいしさを知らないのかも知れない。

 本当に腹が減ったときに一番美味しいものは、焼肉でもラーメンでも牛丼でもパンでもない、絶対に「おにぎり」なのだ。ハイキングで山頂で食べる弁当は、おにぎり以外はあり得ない。それも正しい方法で作った「おにぎり」でなくてはならない。

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