——
先生は最近、テレビを見てますか?
もう、どの番組もくだらなくて、ほとんど見なくなった。それというのも、視聴率なんかを調査するから良くないのだ。
——
どうしてですか? 視聴率を測るから、どんな番組が人気があるか分かり、良い番組作りに役立つのではないですか。
でも、現実には、良い番組作りなんかできていないではないか。
実際、番組制作者は、「良い番組」ではなく「視聴率のため」に番組を作っている。1ヶ月後の打ち切りを恐れ、1分でも視聴者をつなぎ止めるために、どんなに卑怯で低俗な手段でも厭わない。
もはや、テレビ番組は「作品」ではなく、制作者にとっては視聴率を稼ぐことが目的の「視聴率獲得ゲーム」なのだ。
——
でも、結果的に、視聴者に喜ばれる番組を作ることになるから同じじゃないんですか?
視聴者におもねることで、視聴者が本当に喜ぶ番組を作れるわけではない。そんなものは、誘惑好きな女と過ごす一夜限りの恋のようなものだ。本当の恋とは、誘惑ではなく、真摯でひたむきな姿に心から惚れ込むような、そういうものであるはずだ。
——
先生はそういう女性がお好みなのですね。
たとえだ。テレビ番組も、そうであって始めて、心から「毎週見たい」と思い、また翌日に学校や職場で話題にできる、国民的番組になり得るのだ。
——
そうは言いながら、先生も「お笑いネタ番組」に限っては、いつも真剣に見てますよね。
お笑いネタ番組のネタは、視聴率の呪縛から逃れられない、テレビ番組制作者が作っているのではない。お笑い芸人が自ら、視聴率ではなく「売れたい」「笑わせたい」の一心で作り込んでいる作品なのだ。
今のテレビ番組で、「作品」と呼べるものが殆どない中、「お笑いネタ番組」は、「作品」の宝庫である。
お笑い芸人が、真剣に、その作品をぶつけて、視聴者に問うているのである。真剣に見なくては失礼に当たるだろう。