アテネオリンピックのハンマー投げで、アヌシュ選手のドーピング疑惑により室伏選手が金メダルとなった。私は、室伏選手がインタビューや会見で何を言うか、気になっていた。手放しで喜ぶのもあまり好感されないだろう。私の心の中での想定問答集では、次のようなものだった。
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検査では不透明な部分もあったかも知らないが、私は、彼は潔白だと信じたいと思っています。4年後の北京で、もう一度、疑惑なしで彼と決着を付けたい。金メダルは、それまで預かっておくのだという気持ちでおります。
さて実際に行われた室伏選手の会見とは、メダルの裏に書いてある詩が何とやらという、ナゾなものであった。この詩の意味を知りたいと思った室伏選手は、わざわざ街中で翻訳を頼んで回り、最後には古代ギリシャ語の専門家に依頼したという。
真実の母オリンピアよ
あなたの子供達が
競技で勝利を勝ちえた時
永遠の栄誉(黄金)をあたえよ
それを証明できるのは
真実の母オリンピア
古代詩人ピンダロス
以下、100%憶測で、仮説を書く。
室伏選手の周りにも、それを利権として群がっている人たちがいるだろう。ハンマー投げ業界やスポンサーなどだ。そして、JOCにとってもまた、室伏選手の存在は大きい。
要は、そういう人たちが動いて、また室伏選手にも圧力をかけて、アヌシュ選手への厳しい追及の流れを作ったのではないかと思うのである。室伏選手としても、本音では相手選手の疑惑など追及したくはなかったが、お世話になった周りの人たち、そしてコーチでもあったお父さんたちのことを考えると、イヤでもそうせざるを得なかった面があるのだろう。
http://www2.asahi.com/2004athens/athletics/general/TKY200408280410.html
22日の競技直後のドーピング検査で尿検体を他人のものとすりかえたのではないかといった疑いがかけられている。日本オリンピック委員会(JOC)は、「室伏ら現場がアヌシュ選手のドーピングを強く疑っている」として、厳しい調査をするようにIOCに申し入れていた。 (08/29)
朝日新聞より
さて室伏選手の会見は、訳の分からない詩を記者に配って、真実がどうとか語り、まあちょっと穏やかながら狂気じみたものととれなくもない。しかし、これはテレビを通して私たちに直接、暗に訴えかけるための、せいいっぱい計算した演出だったのではないだろうかと思うのだ。つまり、自分の周りはメダルメダルと騒いでばかりいて、いやしい。金メダルのためにはどんなことも厭わない、人でなしがたくさんいる。人としての道徳まで捨てて金メダルを取ったって、一体なんだというのだ。人間として恥ずかしくないのか。そんなに金メダルが大切なのか。おれはこの人たちに突き動かされて、金メダルなんかよりもずっと大切なものを投げ捨てて、メダルと交換してしまったのだ。本当は疑惑の追及などしたくなかった。自分は、やらされただけなんだ! 分かって下さい皆さん!!
皇太子殿下の「キャリアや人格を否定する動き...」という記者会見も、好きなことを思うように言えない皇太子という立場で、画面をはさんで間接的にだが、鋭く私たちの胸に響いてきた。室伏選手も、ハッキリ発言することはできないが、心の叫びが周囲を超えて私たちに届くように工夫した結果、あのような会見をしたのではないだろうか。