「縮尺が大きい」などの語でインターネットを検索すると、多くの説明が出てくるが、これを見るだけでも、いかにこの表現が紛らわしく、直感に反すると考えられているかが分かるだろう。
50000分の1よりも10000分の1の方が「縮尺が大きい」と表現するのである。
しかし、これは全く妥当なことだ。単に分数として、1/50000(=0.00002)よりも1/10000(=0.0001)の方が大きい。それに、10000分の1の方が、例えば同じ建物や同じ山は、大きく描かれるのだから見た目に直感的にも反していることではないように思える。
それでもこれが直感に反するように感じられるとすれば、それはなぜなのか。
多分一つの理由は、「縮尺が大きい」つまり50000分の1の方が、10000分の1よりも同じ大きさで「広い」範囲を描くことができて、扱う範囲が「大きく」なることだ。50000分の1だと東京・千代田区全体が描けたとしても、同じ大きさの地図で10000分の1だと皇居の全体を収めるのは難しいだろう。縮尺に関する限り、世界全図より日本全図の方が「大きい」ということになる。
もう一つ理由としてあげるなら、縮尺に出てくる数字だろう。これこそ小学生に笑われてしまうようなものであるが、分母の数字が大きくなると分数の値は小さくなるのという当たり前の事実が多分影響しているのだ。50000と10000では、50000の方が大きい。だが、1/50000(=0.00002)は1/10000(=0.0001)よりも小さい。縮尺というのが、分数を指しているのか分母を指しているのかをきちんと理解しないと、単に見かけの数字で比べてしまいがちなのだろう。
もうこうなったら、縮尺に「大小」の表現を用いるのは適当でない、と考えた方が良いだろう。
「縮尺が細かい」はどうだろうか。「細かいところが良く分かる」からは、「縮尺が大きい」と同じ意味を連想するだろう。だが、「地図が細かくて見づらい」からは、「縮尺が小さい」と同じ意味を連想するだろう。従って、多分よけいにややこしくなる。
この問題が生じている理由は、「縮尺」という言葉そのものが不適切だからであろう。50000分の1とか10000分の1とかいうのは、本当は「縮小率」と表現するべきものなのではなかろうか。「縮尺」の「尺」は、ものさしの意味であるから、どちらかというと下記のような記号に対する名称としてのみ用いるべきなのである。
「縮小率」という言葉なら、大小で表しても良いが、「縮小率が高い」「縮小率が低い」と表現すればもう誰の目にもどちらがいわゆる「縮尺が大きい」方を指すのか明らかなのではあるまいか。
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