(1)[新しい用法] 勤め先を辞めて、他の勤め先に就職すること。勤め先・職場を変えること。
(2)[伝統的な用法] 職業を変えること。
ここで、「会社員」は「職業」か、という問題が残る。通常、パイロットは会社員であるし、航空会社の客室乗務員も地上職員も、会社員である。「会社員」とは本来、職業ではなく、社会的立場を表すものに過ぎないはずだ。同じく、公立学校の教師は、職業は「公務員」ではなく「教師」であり、「公務員」が職業なのではない。
本来、職業とは、この「パイロット」の部分を指す言葉なのではないか。JALのパイロットが、JALを辞めてANAのパイロットになったとき、それは、果たして「転職」と呼ぶべきなのか?
伝統的な言葉の意味に従えば、パイロットという職業のまま勤め先を変えても、それは転職ではあるまい。では、これを何と呼べばいいのか?
通常、キャリアアップのための“転職”は、同じ業界・同じ業種で行われるから、こんなものは本当は「転職」ではない。では、何と呼べばいいのか? この適切な言葉がないからこそ、“転職”という言葉が転用され濫用されるに至っているのであろう。
しかし、適切な言葉はなくもない。「くらがえ」が、それだ。
くらがえ(‥がへ)【鞍替】
1 遊女や芸者などが他の店に勤めの場所をかえること。
2 それまでにしていたことをやめて、他のことをはじめること。また、対象とするもの、職業などをかえること。
Micrsoft Bookshelf 国語大辞典(新装版)小学館 1988 より
会社員は、遊女や芸者ではない!と言う向きもあろうが、この言葉こそ、「会社員が勤め先を変えた」ということを表すのに相応しいだろう。以下に用例を記して、本記事の締めくくりとしたい。
「久しぶりだね〜。最近、どうしてる?」
「おう、実はおれ去年、転職したんだよ」
「へー、で、今は何やってるの?」
「大手の○○証券にいるんだ」
「で、そこで何やってるの?」
「ああ、相変わらず営業だけどね」
「じゃあ前とおんなじでしょ、単なる鞍替えじゃんwww」
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