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思想家T氏が語る
(エセ名作の条件 まやかしの面白さとニセの感動とは)[シリーズ 6]
2012.2.3
(「(CGが映画文化にとどめを刺す)」からの続き)

——   ずいぶん辛口でいらっしゃいましたが、では、先生にとって映画や小説の名作といったら、どんなものなのですか。
 これが、大変難しい。

 まず、退屈で長たらしい伏線があって、それがラストでは見事に結びついて活かされる –— なんていうのは、わしに言わせればカスだ。

——   そうですか、最後にああなるほどとスッキリして、私は好きですが。
 まずなんだな、伏線は、それ自体も退屈でなく面白く作られているべきである。「これは伏線なんだろうな」と気づかせるものなど、伏線と呼んではいけない。そのシーン自体でも十分面白く、最後に「まさか、あれが伏線だったとは」と気づかせる、そういうのが本当の伏線なのだ。

 しかし、君のような典型的な日本人、我慢を信条とするようなタイプの人間は、退屈な伏線をえんえんと見せられ、我慢し、しかし最後にその伏線が見事結びつくことで、「退屈なシーンを我慢してみた甲斐があった」と感じられて嬉しいのだろう。

——   いや、別に我慢してるつもりはありませんが……
 いいや、しとる。わしには分かる。君のような人間は、我慢し堪え忍んだ後に与えられた果実によって満足しているだけで、面白かったと感じているのではないはずだ。それでもそれが快感なら仕方ないが、わしはごめんだ。

——   我慢してるばかりでなく、それなりに続きが気になって見てるんですよ。
 それもまた、エセ名作の条件の一つだ。

 続きが気になることと、面白いことは、何の関係もない。気になって仕方がないのなら、初めから見なければいいことだ。

 全てを見終わった後に、「見て良かった」と思うのでなければ、ただ続きが気になっただけに過ぎない。テレビで毎週垂れ流している連続ドラマなど、それだけで成り立っているといっても過言ではない。今週と翌週だけではなく、CMの前後でさえ、気になるように作っているではないか。

——   でも、続きが気になるってのは、面白いと思っている証拠ではないのですか?
 暇つぶしに見ているのなら、退屈しなかったという意味においては、目的を達成していると言えるだろう。だから、テレビドラマは暇人の娯楽だと言うのだ。

 忙しい時間を割いてまで見るか、という観点では、まるで違ってくる。途中まで見て「駄作だ」と感じたら、そこで見るのは打ち切りにしたいだろう。だが、「続きが気になる」ように作られていると、それができない。「駄作だが、続きが気になり、やめられない」というのは多忙な人にとっては、最悪だ。

——   駄作だけど続きが気になるなんて、そんな映画ありますかね……?
 ある。君のような人間が、「面白かったけど、もう一度見たいとは思わない」と評価しているものが、だいたいその類なのだ。だまされてはいけない、それは「面白くなかった」のである。

 続きが気になるように作るのは、本当の名作を作るのに比べ、たやすいことだ。だから、商業主義に走るなら、小手先の工夫で続きばっかり気になるように仕込み、見るものにどんどん無駄な時間を使わせるわけである。ま、テレビドラマがこの典型だな。

——   そういいますが、感動して泣くようなこともありますよ。
 泣かせる映画が名作なのではない……これは、前に言ったとおりだ。だいたい、人間は、緊張を作りだしておいて、極限まで緊張を高めた上で、ポッとゆるめることで、ホロッと来るものなのである。こんなのは、ヤクザが素人を懐柔するにあたっての常套手段であり、卑怯以外の何ものでもない。真の感動とはかけ離れたものだ。こういうことで「泣く」のは、「痛くて泣いた」と同じような条件反射だと思った方がいい。

 こうして結局、詐欺的な手法でもって「面白かった」と勘違いさせる、錯覚させるような作品ばっかりが作られているのが現状なのである。こういった小手先の手段は、一度習得すると、それを手放すのが難しくなってきて、頼り切ってしまうのである。

 もはや名作は古典にしかない。そう思った方が間違いないだろう。

——   そんな見方をしていたら、面白いものだって面白くなくなりますよ……。先生が映画を嫌いだということだけ、良く分かりました。
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